をなで、そしてやにわのガッツポーズ。感情を露にした姿は、見ている者に清
々しさを感じさせた。この武豊の馬上シャウトは、長く日本の競馬史の中で語
られていくものなのだろう▼ボクは府中の大歓声の中迎えられる彼の姿を見て
、89年の秋、4強対決と噂された「天皇賞(秋)」をスーパークリークで制し
て「(武豊による)新しい扉」が開かれたと確信したことを思い出した。あれか
ら10年。最高栄誉:ダービージョッキーという称号の獲得。ここまでの道の
りがあの時から考えて、長かったのか短かったのかは分からないけど、「おめ
でとう」と心から言えることは確かだ▼眠っていた10年前の文章を引っ張り
出してみる。明らかにおかしい文節には多少の手は加えたが、意味が伝わり難
い部分は敢えて原文のままにした。もはや自分でも当時何を言いたかったのか
分からなかったので▼当時はパソコンなんて持ってないから大学ノートに手書
きですわ。消しゴムで訂正した跡もなかったから、思うまま書いたのでしょう
。いや、ちょっと懐かしかった。この頃は鎌倉(と言っても栄区との境の岩瀬)
に住んでました。
◆新しき扉〜メモリアル・オブ・テンノウショウ。
▼8時過ぎに東京競馬場の正面入り口に着くと、既に長蛇の列が出来ていた
。10月初めの毎日王冠を受けてイヤが上にも盛り上がる“4強対決”の第1
00回天皇賞は、開門前から既にヒートアップしている▼列に1人で並んだボ
クは、若いグループの連中のレース予想に耳を傾けた。「オグリキャップは外
せないだろう」「イナリワンの末脚を見たかい」「外枠だけどユタカのスーパ
ークリークは不気味だ」「岡部が今度こそアルダンとやってくれるさ」彼らの
声で代弁するまでもなく今日は全て4強なのだ。だからこそ、スタンド自由席
を確保するためにボクはここにいる。
▼ゴール板を過ぎ、どちらかというと1コーナー付近のスタンド席をなんと
か確保したボクは、暫くレースプログラムに目をやったあと、パドックへと向
かった。1レースまでにはまだまだ時間があるのにだ▼パドックには予めJR
Aに渡しておいた各馬のタレ幕が掲げられている。ボクはパドックタレ幕の人
気を調べに行ったのだ。やはり人気はオグリキャップ。続いてイナリワン。ス
ーパークリークやメジロアルダンは鞍上の武豊、岡部幸雄騎手のものと併せる
とオグリキャップに続くといった案配だ▼また伏兵各馬のものも多々ある。ヤ
エノムテキ、ダイゴーシュール、ウィンドミル、ランニングフリー等々。大好
きなランニングフリーにはいいレースをして貰いたいと思った。
▼午前中のレースをほとんど“見”にしたボクは、武豊や田原成貴の騎乗し
た関西馬の活躍に目を奪われていた。今回も関西の馬がやりそうな気配を感じ
た。だとすると、オグリキャップとスーパークリークか。前夜までの◎○であ
る▼前売りではオグリ−イナリの3−5が1番人気で4.3倍。続いてオグリ
−クリークの3−8で4.7。オグリ−アルダン5.5と続いていた。イナリ
ワンの前走の末脚、クリークの大外枠との理由で、3−5が1番人気なのだろ
う。ボクにとっては好都合であった▼当日オッズは変化した。オグリ−クリー
クが4.1倍で1番人気に上がり、オグリ−イナリは4.7倍で2番人気とな
る。1時過ぎにサコタ、弟とやって来て、ボクら3人は揃ったのだが、ボクは
にわかにイナリワンに気が向いてきて、結局オグリからイナリワンの3−5を
5千円、同じくオグリ−アルダンの3−4を2千円と馬券を絞って勝負&見を
することにした▼ユタカのスーパークリークが来たらしょうがない。オグリキ
ャップが万が一敗れるとしたら、それはやはりスーパークリークなのではない
かと思ったが、4強と言われた中でもオグリの力は1枚上と、大方の見解と一
致したのであった。オグリが負けるといった観点から馬券を買いたくなかった
のだ。
▼逃げるのはやはりレジェンドテイオーで続いてウィンドミル。メジロアル
ダンがスタート良く内をピタリと回り、後ろにヤエノムテキ。大外のスーパー
クリークはやはり前に行くだろうと考えた。オグリの外から差して勝つのは至
難のワザと思えた▼前走毎日王冠はイナリワンの勝ちレースだったハズだ。そ
れをオグリキャップは抜き返し、わずかハナ差とはいえ勝ったのだ。そういう
意味からすれば、イナリワンが再度その展開に持ち込んだとしても勝てるとは
思えず、今季対戦のないスーパークリークに魅力がある訳なのに、不思議なも
のでボクは3−5を5千円も持っている次第だ▼中団にオグリキャップが位置
し、それを見るようにイナリワン。直線、坂下から4強が鼻面を並べて叩き合
うという、堪えられないレースとなるはずだ。
▼3時35分。ファンファーレが鳴り響き14万の大観衆は一斉に立ち上が
り、足を踏みならして歓声をあげる。1年前からG1は全てこういうエキサイ
ティングな雰囲気に包まれるというのが常となった▼スタート。外からスーパ
ークリークが行く。“やっぱり”とボクは弟と顔を見合わせる。レジェンド
、ウィンドミル、スーパークリークと続き、ヤエノムテキ、メジロアルダン、
オグリキャップ。大方の予想通りだ。ただ1つ気になったのはイナリワンがや
やオグリから離れて競馬をしていたことだ▼元来、柴田政人は追わせる騎手で
こういったレースをよくする。直線馬群を割って豪快に伸びるというのが得意
なのだ。イナリワンを買った理由は、馬の力もさることながら柴田の追わせる
騎乗ぷりに酔ってみたかったのだ。それと、武豊の若い勢いを南井のオグリキ
ャップ、岡部のメジロアルダンとともに封じ込んで欲しかった。武が嫌いとい
う訳でなく、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた現在を代表する3ジョッキーの
意地を見せて貰いたかったのだ。
▼3コーナーから4コーナーにかけてスーパークリークは好位をキープし、
アルダンは内埓沿いに狙い通りの位置。オグリは今回は外に持ち出さず内にじ
っとしている。イナリもジワジワと追い上げてくる。イナリを買っている弟
は気が気ではないらしく「イナリはどこだ、イナリはどこだ」と言っていた▼
直線に向く。まずヤエノムテキが坂下でトップに立つ。大歓声だ。内にアルダ
ン、外にクリーク。オグリはその後ろにいて、イナリワンは大外を突く▼ター
フビジョンに激戦が写し出される。「ウォッ、ヤエノムテキか」と叫ぶ弟に
「まだまだこれからだ」と叫び返すボク。内からアルダンがやってくる。そし
て、スーパークリーク。馬群が捌けずオグリは外から追撃体勢。イナリはちょ
っと苦しい▼“アルダン、アルダン”ボクも声を張り上げる。スーパークリー
クが抜けた。外から豪快にオグリキャップが伸びてくる。場内は悲鳴に近い歓
声だ。そして4強の決着はついた▼時代の寵児ユタカがまたやったのだ。スー
パークリークが快勝。2着はメジロアルダンか。場内のボルテージがさらに上
がり、そして張りつめたものが弛んだ。あのオグリが負けたのだ。
▼ターフビジョンは熱戦をリプレイし、オグリが2着を死守したことを確認
させた。1〜3着までクビ・クビという大接戦。ウィニングランのスーパーク
リークと武豊がスタンドに戻ってくる▼再び大歓声が場内を支配し、鞍上に立
ち上がったユタカが右拳を挙げると、ファンは彼らを祝福すべく拍手をし声を
上げた。ボルテージは最高潮に達し、ボクは素直に勝者を讃えた。そして少し
クールに、今新しい時代が確実に開かれたことを確信した▼きっと南井、岡部、
柴田のベテランジョッキーは悔しかっただろう。栄光を手にしてきた彼らは、
今日は若いユタカの引き立て役になったのだから。そして、その主役は今まで
にない一種異様な雰囲気の中で拳を突き上げているのだ。“何かが違う。時代
が変わった”と彼らも思ったはずだ。
▼新しき扉が開き、その巻頭を武豊が飾った。だからと言って、ユタカ時代
が到来したとは思えない。確かに展開さえも味方にしてしまう、恐るべしユタ
カではあるが、この3ジョッキーが力あるそれぞれの愛馬を駆って、今度は逆
に武豊スーパークリークに戦いを挑むのだ▼G1シリーズ4強対決は始まった
ばかり、これからが本当の楽しみであり、真の決着は時代が決めるとボクは思
うのだ。
▼<晩夏>に書く。余談になるが、この時100回目の天皇賞を記念してJ
RAは、歴代の天皇賞馬をデザインしたトランプカードを限定で配布した。こ
のトランプは今もボクの部屋の押し入れのどこかに眠っているハズである▼さ
て。こうして以前書いたものを改めて活字にしてみると、「新しき扉」という
意味の取り違いをしていたようだ。自分の記憶では武豊が新しい時代を切り開
いたと思っていたのだが、実際の文の流れではそこまで彼を礼讃してユタカ時
代の到来を語っている訳ではない。が、なんにせよ、この89年の秋にJRA
の競馬が変わっていったことは確かで、クライマックスがオグリキャップ激走
の「ジャパンカップ」とするならば、このレースはその序曲みたいな位置づけ
だったのだろう。そういった意味ではタイトルは悪くはない、かな?▼文章ス
タイルは「夜明け前」ってカンジだな。
▼この日の購入馬券。
単 勝:ミツルリュウホウ 10百円
複 勝:ミツルリュウホウ 100百円
馬 連:ミツルリュウホウ*セイウンスカイ 10百円
ミツルリュウホウ*スペシャルウィーク 10百円
ミツルリュウホウ*キングヘイロー 10百円
ミツルリュウホウ*タイキブライドル 10百円
--------------------------------------------------------------
ラウンジ有馬記念:
かって渋谷に「有馬記念」という競馬バーがあった。
2階へと上がる階段にひかれた赤い絨毯が、勝手にこころの
敷居を高く感じさせていた。
だが。1度思い切って店に入ってしまうと、そこは競馬ファン
にとって至福の場所であった。
ここは、バー「有馬記念」へのリスペクトから、その名を冠した
競馬予想のページである。
--------------------------------------------------------------
人気ブログランキングへ


