2010年11月10日

読書ノート、ふたたび。佐藤多佳子「一瞬の風になれ 第三部」


■タイトル:「一瞬の風になれ 第三部」(講談社)
■著者:佐藤多佳子
■ISBN:4062136813
■読書期間:2010/6/3〜2010/6/4
■抜書き:第五章 光る走路 3インターハイ予選<南関東大会3> より

 俺は連より早くアップに出かけた。連の場合は、予選をア
ップと見なして軽くしかやらない。
 俺は1本目から、いきなり本気の勝負だから、しっかり仕
上げる。
 溝井と一緒にサブトラックに行った。溝井は、ドリンクや
ゼリーなど水分、栄養補給のもの、着替えやタオルやスパイ
クなどの荷物を持ってきてくれる。

 まずサブトラックを歩いてからジョグ。軽い体操のあとに
入念にストレッチをやる。
 筋肉がしっかり伸びる。関節がやわらかい。うん、いい状
態だ。身体は万全だ。
 昨日、マッサージしながら溝井も誉めてくれたっけ。
気持ちさえしっかり持っていけば、大丈夫、戦える。

 ドリルをやってからドリンクを飲み、サブトラを見渡して
上空を見上げていい天気だと思った。
 六月にしては湿度が少ない。まだ朝だからかな、気持がい
い。よく晴れて、風はゆるやかだった。
 暑くなるかもしれないけど、勝負に影響するような強風や
雨なんかはなさそうだと思った。
 まあ、天気のことはわかんねえけど。


■長い長いワンセンテンス〜サブトラックに思い出が詰まっている

 サブトラックでのアップ。懐かしい。
 四ツ池公園陸上競技場の、あるいは草薙陸上競技場のそれを
思い出す。
 今静岡で一番施設が充実しているのはサッカーワールドカッ
プで使用されたエコパだと思うが、あそこのサブトラックはど
んな感じなのだろうか?
 1回だけあのドでかい スタジアムの近くに行ったことがある
けど、そこまでは考えが及ばなかった。

 昔、ある文章を書いたことを思い出した。
 すでにこのブログの中(競馬関係:98オークス回顧)にアッ
プしているが、改めてもう一度載せてみたい。


 フゥとひとつ呼吸をし、それを合図にボクは軽く走り出した。
スタート前のウォーミングアップ。高まる緊張感は、周りの同
じ様に体を動かしている人を見る度に増してくる。
 お試しの時間。苦しみの時間。若しかしたら至福の時間。そ
れが間近に迫ってきていた。

 会場の山中湖中学校。例えここに通ってはいなくとも懐かし
い校舎の奥には、(今日は雲に見え隠れしている)富士山が控え
ている。♪頭を雲の上に出し♪という歌詞が体感できる。
 その雲のある位置が、山中湖で見ると、どういう訳か低く感
じてしまう。そして、年を経るごとに富士に惹かれてしまうの
は何故なのだろうか。
 BGMにはデュラン・デュランの「美しき獲物たち」がかか
っていた。もう10年以上前のヒット曲で、この曲は007シ
リーズの主題歌として使われていたハズだ。懐かしかった。
 その頃2、3の習作をしていた。物語りのクライマックスは
運動会のリレーで、丁度007シリーズが劇場にかかっていた
ものだから、ボクはそのテーマ曲を頻繁に聞きながらモノに成
らなかった習作を書き上げた。

 この曲を選んだ大会関係者は、きっとボクと同年代なのだろ
う。じゃなきゃ、今頃デュラン・デュランなんて聞かせないよ。
ヒット曲の数ならデュランだろうけど、1発度で「テイクオン
ミー」のa〜haの方が著名なのではないだろうか、なんてど
うでもいいことを考えてしまった。

太陽が照っている中、気持ちの良い風が吹き、そして昂ぶっ
ていく自分の気持ちを手に取りながら体を動かす、というシチ
ュエーションで、ボクがいつも思い出すことはたった1つだ。
 最後のインターハイ予選。雨で棒高跳びの競技開始が延び、
朝1番のそれが昼からの仕切り直しとなった。9時にはポール
を持って跳躍している自分をイメージしていた分、12時まで
の時間は余りに長く感じた。
 また、余裕のある戦いというより、むしろ実力的に土壇場の
後がない戦いだったために、何ならかの宣告が後に伸ばしされ
ているだけのようで、気持ちは塞ぎがちだった。
 勿論、そんなマイナス思考ばかりをしていた訳ではなく、
<こうやって跳ぶんだ>とか<4mを1本目でクリアして俺は
県大会に行く>という事も考えた。
 前向きな姿勢と弱気な心持ちが交互に、そして不定期に、繰
り返し繰り返し自分の中を巡っていた。そんな時間だった。

 ウォーミングアップは同級生のSと別々に行った。今となっ
ては、それがSがみせた気遣いなのか、ボクがそう主張したの
か、自然とそうなったのか定かではない。
 でも、彼はインターハイを狙おうかというトップレベルに近
い選手だったので、少なくともこの競技開始の延滞で、ボクが
抱いた感情は露ほどもなかったハズだ。
 結果としてそれぞれに分かれたのは正解だったと思う。

 ボクは自分だけの感情を噛みしめながら、ウォーミングアッ
プを始めた。その時太陽が照り、5月の心地良い風が吹いてい
たというのは、都合のいい記憶なのだろうか。それとも単なる
感傷なのか。
 だけど、その時ボクは確かに一切の迷いが介在する隙もない
ぐらい、前しか見ていなかった。4mの高さにあるバーを<越
えるんだ>ということ以外、何も。

 今でも、ウォーミングアップに入る時の自分の仕草をリアル
に思い出せる。
 手を頭の上に組んで大きく背伸びをして、フゥと深呼吸をし
た。目の前には、それぞれの競技開始に備えアップする選手達
がいる。そのいわば大きな輪の中に入り走り始めた。
 体を動かすと、もう自分を信じるしかないと覚悟が決まった
のか、余計な気持ちが持ち上がることは無かった。
 朝の雨が嘘の様に空は晴れ上がり、太陽は日差しをボクの体
に浴びせた。自分が走ることによって感じる風だけではなくそ
よ風が吹いて、これもボクの体を包んだ。ドキドキと高鳴る胸
の鼓動させ心地良かった。集中していた

 4mの1回目の試技。跳躍の前にポールを立て、バーとの距
離をその日の自分の調子に合わせて微調整する。30m先の助
走開始位置まで小走りに走る。「腰を高くあげて助走するんだ
」と自分に言い聞かせた。
 助走。突っ込み。(ポールをボックスの中に入れる動作のこ
と)跳躍。体がバーを越えた瞬間。背中に受けたマットの感触。
反対側のメインスタンドに陣取っていた後輩達の拍手。

 4m10、4m20の試技も1回目でクリアした。自分に勢
いがあることがハッキリと分かった。ボクが練習で掛けたこと
すらないバーの高さをクリア出来たのだ。
 この日の全ての試技に満足ではなかったけれど、自分の中で
の納得いくレベルは優に越えていた。
 <気持ちの昂め方>それがそこで得たことだ。結果が出たか
ら<やれる>という自信めいた感触に重みがでたんだと思う。

 スタートラインに立つと、と言っても1万人近くが走るマン
モス大会なのでスタートラインは遥か先にあるのだが、耳覚え
のある太鼓の音が響き出した。
 和太鼓保存会なる人々が、和装に捻じり鉢巻きという出で立
ちで、ドンタララッタ、ドンタララッタというリズムを奏でて
いる。
 目にしたことのある何気ない光景、実は耳に馴染んでいた音。
ボクは忘れていた太鼓の音に「今年も山中湖に帰ってきた」こ
とを実感した。
 和太鼓のリズムは絶え間なく刻まれ、スタート時間は刻一刻
と迫ってくる。周りの人達は足踏みなどをし、軽く体を動かし
出した。ボクも同じことをしながら、思考は過去に戻っていっ
た。和太鼓の音が誘ったのだ。

 去年のこの大会からの1年間のこと。出場した大会、その間
の練習。満足、悔い。楽しさ、苦しさ。そういった感情は走る
という行為に関係するこの1年の記憶だけではなく、日常のこ
とも思い出させた。
 だから、ここに立っているんだ、とフイに理解した。そして、
その理由はこの1年だけにあるのではなく、オーバーに取れば、
これまでの全てのモノを抱えて、今ここにいるとも言える。
 走りたい気持ちに嘘などない。誤魔化して1回は走りきるこ
とは出来ても、継続することは無理だろう。

結局、目論んでいたタイムに程遠い記録でボクはゴールした。
 思った様に動かない体に、途中でほとほと嫌気がさしたが、
残り1キロからの(嫌みな)坂のアップダウンに負けることはな
かった。
 完走できたんだからいいのだ。<やれる>という感触が、そ
の自分の思いのまま、望んだような結果で返ってくると信じて
いる訳ではない。信じているのは<やれる>という感覚であっ
て、求めているのは決して現実の結果ではない。
 そして、そういった思いを持ち続けることが大切なのだ。

 高校3年のあの時に感じた感覚。体と心で感じた姿勢。
 誰にでもある、その人ひとりひとりのちっぽけな、それでい
て大切な思い。それは宝物だ。決して損ないたくはない。損な
うぐらいなら、どこかに隠してしまいたいとすらボクは思う。
 来年も「山中湖」に帰ってきて走ろう。

宿に戻ると昼食にはカレーとビールが出てきた。ボクはゴー
ル後、へたばった体と心を整えるために、多大な時間を費やし
たので、帰りが一番遅かった。
「随分と遅かったじゃないか。大丈夫なのか?」と誰かがいう。
「大丈夫です。とりあえず完走できたから」みんなの顔はビー
ルが入っていたこともあるだろうが、満足げなものだった。
 ボクもきっとそうなのだろう。

(以下、競馬関連の話しとなるので略)


 ところで。この「一瞬の風になれ」という作品は、ある意味
で未完の作品なのかもしれない。
 第ニ部の途中ぐらいから、これ最後まで書ききるのかな?と
第三部で完結と知っているからこそ、そう思ったのだ。
 どこが?ということは、まだこの作品を読まれていない方の
手前控えておきたい。

 最近、まったく走っていない。世はジョギングブームだと
いうのに。

 山中湖は大好きで、大会だけでなく、練習で2回走りに行っ
てしまったくらいに。


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読書ノート、ふたたび。: http://onlykiwi.seesaa.net/

読んだ本の題名と作者、それから読んでいた期間と出版元。
 このたった4つの情報を記しただけの簡単なメモ的なもの
が、ボクがかつて付けていた「読書ノート」の全容だ。

 いつの頃からか、せっかくの読書ノートをつけるのをやめ
てしまった。
 本を読むたびに、ああ、なんて思うこともあり、じゃあと
いう訳でふたたびつけだそうと思いたった。

 できれば、その読書ノートをつけることを勧めてくれた
きみこ先生に読んでもらいたくもある。

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*読書ノートの索引はこちら

  http://onlykiwi.seesaa.net/category/6437306-3.html


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