2010年11月06日

読書ノート、ふたたび。佐藤多佳子「一瞬の風になれ 第一部」


■タイトル:「一瞬の風になれ 第一部」(講談社)
■著者:佐藤多佳子
■ISBN:4062135620
■読書期間:2010/5/28〜2010/5/31
■抜書き:第一章 トラック&フィールド 3インターハイ予選<地区> より

 浦木さんが走る。いつもハードルをぶきっちょに跳び越し
たり蹴倒したりしているひょろ長い足がコーナーにピッチを
刻んでいく。
 大丈夫か?風はどっちだ?いきなり東に変わったりしてね
えだろうな?

「何位ですか?」

 思わず関さんに聞くと、「3位だ」とソッコー答えが返って
くる。

「もっと声出せ、バカ」

「浦木先輩、ファイト!」

 俺は大声を張り上げた。

「春高、ファイト!」

アンカーの岡林さんにバトンが渡り、直線に入る。
 ここまでくると、スタート時の差がなくなり、見た目通りの
順位になる。誰でもわかる。
 ウチは4位に落ちている。のどが痛いほど叫んだ。何言って
たかわかんねえ。とにかく勝て勝て勝て勝てっと思った。
 ああ、ゴールだ。並んで飛び込んでいる。3位だか4位だか
5位だか、わかんねえ。

「何位ですか?」

 せきこむように聞くと、「4位・・・かなあ?」
 関さんも首をひねってる。

「それって、OKですか?」
「タイム出ないとわからない。この組、速かったから。ウチ
も悪くないレースだったと思うけど。岡林さん、すげえ頑張っ
たよな、最後」
「はい」

 ラストの競り合いはものすごかった。後ろから見る形にな
ってわかりにくかったけど、メチャ迫力あった。

 マークをはがしにいっていた浦木さんが戻ってきて、関さん
がランパンにつけた腰ナンバーカードを取るのを手伝っている。

「どうよ?」

 浦木さんは俺にむかってニコニコした。納得のいくレースだ
ったみたいだ。

「はいっ」

 俺もニコニコした。

「気持ちよさそうに走ってましたね」
「風が良かったねー」
「はい」
「県、行けるよ」
「ほんとですか?」
「絶対ね。たぶんね」
「うおっ、すげえっ」
「よーし、舞台は作ったぞ」

 浦木さんは満足そうにつぶやいた。

「せっかく速い奴、二人も入ってきたんだ。出番作れねえと、
俺たちも恥ずかしいからな」

 出番?

「何きょとんとしてるんだよ。もちろん、オーダーは先生が
決めるんだけど、心身の準備は整えておけよ、一年坊主。
県のリレーだよ、県!」

 日頃ぼそぼそと陰気にしゃべる浦木さんが、やけにさっそう
と言い切って、「今の台詞、先輩っぽくない?かっこいくない
?」と関さんを振り返って苦笑させた。

 春高の4継は、12位で県総体出場決定!


■長い長いワンセンテンス〜リレーは高校陸上の華

 本屋に行くと、いわゆる"平積み"という目立つディスプレイ
を施された本群がある。
 話題になっている本や人気作家の本を直ぐ手に取りたいタイ
プではないだけに、そこで足を止める機会は多くはなく、チラ
見する程度だ。
 しかし、その数少ない"手に取ろうとした"本で印象に残る場
合がある。
 ここ数年では有川浩『阪急電車』とこの佐藤多佳子『一瞬の
風になれ』がそうだ。

 前者には痛烈に読みたいという欲求が湧いたのだが、後者は
逆に醒めた目でみてしまった。なぜかというと。
 この青春小説がスプリンターを主人公としていることをその
POPから知り得たのだが、中学、高校と陸上部に所属してい
たという経験が、逆に色眼鏡で見せてしまったのだ。
 難しいぞ、陸上をテーマにするのは。こちら(経験者)にしっ
かりと練習内容を納得させられる?なんて思ってしまった訳で
ある。完全な上から目線である。
 オマケに"TVドラマ化"とかいう文字も躍っている。
 映像化なんて、走りにリアリティ持たせられないから絶対に
ムリだ、と思ったものである。

 今年の2月に『黄色い目の魚』という本を再読した。実に面
白かった。
 悪くない小説という曖昧だった記憶の、遥か先にある出来の
良さと面白さだった。そして、そこで私は知るのである。この
作家が『一瞬の風になれ』を書いていることを。
 陸上をどこまで書けるかしらないが、少なくともしっかりと
したストーリー展開と心理描写は間違いあるまい。読もうと思
った。

 抜き出しだ場面。
 私の専門は中学、高校を通してフィールド:棒高跳びであっ
た。だから、大会にリレー走者として出場したことはない。
 が、たとえフィールド競技者でも4x400mリレー、所謂
4継が陸上部のコアであることを意識し、部員がひとつにまと
まるための大事な種目だと認識していた。
 自分らの代のリレメンは分厚い層を誇る静岡の県レベルで勝
負できる程ではなかったが、キッチリ県大会に進めるタイムを
安定的に出していた。でもちょっとしたバトンのパスミスで全
てがフイになる競技だけに、応援する方もメチャクチャ緊張し
たものだ。
*1つ下の代がベスト6の壁を打ち破って東海大会に出たこと
は賞賛に値する。
 
 作中人物である3走の浦木は結果を知り、書かれた以上に喜
んだことだろう。そして、トラックの各所で応援に廻った春高
陸上部員も。
 読んでいて、懐かしい感情が蘇ってきた。

 自分たちの部は走るランナーに"ファイト!!"と声を掛けて
いた。短く詰めて"ト!!"とか。
 自分にかけられた声援でなくとも、声がかかると勝手に体が
前に出て行く感触があったな。
 フィールド専門でも記録会かなんかで100mや200mを
走ることはあったから。

 作品の後半部分で4×400mリレーが描かれる。私達はマ
イルと呼んでいた競技だ。
 こちらも熱い走りが繰り広げられる種目で、個々のスプリン
ト能力とチームとしてのバトンテクニックが問われる4継より、
はるかに"気持ちで走る"部分が高い根性戦だ。
 そして、根っからの400m専任だけでなく、スプリンター、
あるいはフィールド競技者もそのメンバーに加わるバラエティ
さも面白い。(後者は陸上強豪校以外での話しですが)

 佐藤多佳子さんはしっかりと取材をしていた。ちゃんとマイ
ルリレーの面白さを書いていたのだから。
 この本に最初に出会った時の私の思いはまったくの杞憂であ
った。

 1つだけ、元棒高跳び競技者から言わせてもらえれば。難癖
的ですけど。
 主人公の同期に1人、ポールヴォルダーがいる。詳細はまっ
たく触れられないのだが、私の読み込んだ限りでは彼は一人で
練習をしているようだった。
 個人競技である陸上で唯一、棒高跳びは1人では練習は出来
ない。離したポールをしっかり受け取ってくれる練習相手が必
要なのである。
 でないとポールの変なところに傷がつき、跳躍でポールが変
な折れ方をする恐れがあるからだ。そういう折れ方をすると、
体はあらぬ方向に飛ばされてしまう。危ないのである。
 また、極端な話し用意するのはスパイクだけでいいトラック
競技とは違い、棒高跳びは4m以上あるポールを持ち運ばなく
てはならない。
 作中、棒高のxxは合同練習にいっている、とさらりと書か
れていたが、1人でポールは持ち運べないし、電車にも持ち込
めない(だろう)。
 顧問の先生の車に取り付けられたキャリアに載せて運んでも
らう。つまり、他所で練習をしようとすると、必然的に先生も
不在になるのである。
 例外もないことはない。隣りの市から後輩と2人でポールを
肩に担ぎ東海道を歩いてウチの高校に練習しにきた剛の者もい
るにはいた。
 K工のT本。今思い返しても、お前はスゴイよ。


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読書ノート、ふたたび。: http://onlykiwi.seesaa.net/

読んだ本の題名と作者、それから読んでいた期間と出版元。
 このたった4つの情報を記しただけの簡単なメモ的なもの
が、ボクがかつて付けていた「読書ノート」の全容だ。

 いつの頃からか、せっかくの読書ノートをつけるのをやめ
てしまった。
 本を読むたびに、ああ、なんて思うこともあり、じゃあと
いう訳でふたたびつけだそうと思いたった。

 できれば、その読書ノートをつけることを勧めてくれた
きみこ先生に読んでもらいたくもある。

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*読書ノートの索引はこちら

  http://onlykiwi.seesaa.net/category/6437306-3.html


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posted by onlykiwi at 08:58| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(1) | 読書ノート、ふたたび | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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超うめーww
Excerpt: 狙い目は不倫女だぞ!! 昨日もパイ乙揉んで熟まんパコパコしたら7マンくれたしwwwww
Weblog: FUL
Tracked: 2010-11-07 00:33
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