本来、この話しは「宝塚記念」の挿入話しにする予定だったんです
が、時間的な余裕のなさと、あのレース自体への予想内容の練りなさ
加減から取りやめていました。書かなかった分、この話しが自分の中
で醗酵していてくれていると良かったのですが・・そこまでは無理な
ようでした。
ま、それでも、自分にとっては楽しい経験であったことは確かです。
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「How Many いい顔」
18時過ぎにボクは旅館を出て、雨がそぼ降る中を歩き出した。
懐かしさを感じる、ほとんど勾配のない緩やかな坂道を上っていき、
2つ目の角を曲がった先にお目当ての”灯り”の燈った看板が目に
入った。
大阪〜水島〜高松〜博多を廻る出張を終え、ボクは今この地を訪
れていたのだが、博多に入る前にここに立ち寄るプランも持ってい
た「下関に泊まれば、仕事が終わってから休みを取ってここへくる
必要もない」と合理的に考えたのだ。
そのプラン通りに事を進めていたら、看板に灯りは燈っていなか
った。なぜなら目的の店は毎月第3月・火・水にまとめて休みを取
ることになっていたのである。
念には念を、万が一を考えてボクは店の定休日を電話で確認した。
ラッキーだったと思う。
高松から博多に向かう道すがら、敢えて下関で下車しそこから山
陰線で30分のここへ嬉々として足を運んだ自分。店の灯りが燈っ
ていない様を発見した時の落胆を想像すると・・・。
暖簾をくぐると既に先客が3名ほどいた。
カウンターの手前にサラリーマン風の50代と思われるおじさん。
奥に20代後半のカップル。ボクはその間に座らせてもらった。
「飲み物は何にします?」と店員さんが聞いてくる。
「あ、ビールを」
「瓶?それとも生?」
「生で」と答えると「はい、生ね。ねぇ、お客さん、前にもウチに
来たでしょ」
Sさんはボクのことを覚えていてくれたらしい。
付け場にはあの女将がいた。カウンターの上には朱色で染め上げ
られた暖簾がかかっている。花瓶にさされた花の色も朱だった。
店の雰囲気は変わっていない。女将が握る小奇麗な寿司屋。変わ
ったのはキープボトルのサントリーオールドの十二支瓶が、黄色黒
の虎から白の兎になったことぐらいだろうか。
去年の秋、仕事で訪れた川棚温泉で、たまたま入ったこの寿司屋
に魅せられて、今 ボクは出張を終えた足でここにいるのだった。
付け出しはどっさりと盛られた魚の皮を細く縦に切ったもの。
口に含んでみると、これがプリプリとしていて旨い。
素早くビールを飲み干して冷酒に行きたくなってしまうほどだ。
「これ何ですか?」とボクが聞くと、和服を着た女将は「マグロの
皮ですよ。珍味なんですけど、お口に合わない?」と言う。
「とんでもない。旨いです」
この前は付け出しに河豚が出てきて まず1本取られたのだが、
今回も早々に白旗が3本一斉に上がった感じだ。
「今日は何かいい魚ありますか?」
「そうねぇ。ごめんなさいね。今夜はちょっとねぇ・・」と丸くふ
くよかな女将は口篭もる。
それは予想していた。何しろ昨日から雨が降っているのだ。
「ウチは天然ものしか入れないことにしていて、今朝の市場には魚
があまり入ってこなかったのよ。どうしましょう」
「この間来たとき、あんまり鯛が美味しかったんで楽しみにして来
たんだけど、やっぱりこの雨じゃダメか」
雨男はこういう時に諦めがいい。
「アラ お客さん、1度来られたことがあるの?」
「女将さん、いらしてたじゃないですか」とSさん。
「どこかでお見かけしたことがあるとは思ってたんですけど、そう
ですか。こちらへはお仕事で?」
「ええ、まぁ。仕事終わったんで、明日は休みを取って今夜ゆっく
りしようかなと」
「そうよねぇ。お休みにはゆっくりした方がいいものね。私もね、
休みはまとめてとることにしてるんですよ。昨日まで月・火・水と
休んでたの。その方がのんびりと思うのね。アラ、よかった。今日
いらしてくれて」
「あ、実はこちらに電話かけて休みの日を聞いたんです。そしたら
丁度こっちに来ようとした日が休みに当たってて」
「貴方でしたの あのお電話。私、日をずらせませんかなんて言い
ましたわよね。あの時は『無理かもしれない』とおっしゃってら
したのに」
「よく考えたら、仕事が終わってからこっちに来た方がいいなと
思って」
「今日はどちらでお仕事してらしたの?」
「博多です」
「確か東京って言ってらしたわよね お住まいは」
「ええ」
「明日はどうやって帰られるの?」
「博多に戻って飛行機で」
キチンと化粧をしている女将は微笑んでくれた。
しばらくするとサザエの刺身が出てきた。ボクはここで冷酒に切
り替えた。まだ付け出しのマグロの皮も残っている。(正確にいう
と、残しておいた)
*** *** *** ***
左隣りに座っていたカップルが引き上げたので、店にはボクとボ
クの右隣りにいるおじさんの2人になった。
女将との会話を聞いていると野球が好きなようだった。
「僕はね、ダイエーと巨人が好きなんです」とおじさんは言う。
「ホークス、今年調子いいですからね。実はボク、ホークスファン
なんです。
これはその場のおべんちゃらではない。ボクはホークスファンだ。
子供の頃読んでいた水島新司の『あぶさん』の影響で密かに南海
ホークスを応援していた。
ライトグリーンにN(南海)とH(ホークス)の白いイニシャルの帽子
を1人小学校6年生の時にかぶっていたし、福岡ダイエーホークス創
設時の三宅一生デザインのユニフォームと帽子が大好きで(最近まで
この帽子をかぶっていた)、今でも黒にFDH(福岡・ダイエー・ホー
クス)の赤いそれが縫われている帽子をジョギングの時にかぶっている。
それにしても、今シーズンからホークスは帽子のツバを赤に変えヘ
ルメットと同じデザインにしたのだが、あの帽子がどうにも不恰好見
えるのはボクだけなのだろうか?
「今年はもう絶対に優勝しますよ」とおじさんは丁寧な口調ながらも
力強く言い切った。
「だといいですね。ただ、連勝・連敗のあるチームだから、下降線に
入った時にどれだけ踏ん張れるかでしょうね」
「大丈夫ですよ。城島も成長したし、若いピッチャーもどんどんでて
きましたから」
「リードはよく分からないけど、城島はバッティングがいいですからね」
城島はいい選手になったと思う。ドラフト指名時、進学が内定して
いた大学側と揉めたけれども、高卒捕手としては最短と思える早さで
レギュラーを取った。
「僕の高校の後輩もダイエーにいるんです。彼にも早く一軍のマウンド
を踏んで貰いたいです」
「名前なんて言うんですか?」
「松本っていうピッチャーです」
「あ、スイマセン。ちょっと分かりませんね」
「(別に嫌な顔はせずに)覚えておいてください」
「ところで出身はどこなんですか?」
「僕ですか?僕は工業です」
「?」
「熊本工業」
「え、熊工ですか。そりゃ凄い」
「今でもたまに草野球はやるんですが、肩を壊していてね」
「え、ちょっと待ってください・・。ということは、あの熊工の野球部
のOBですか」
「ハイ」
「熊工なら甲子園には?」
「出ました。僕らの時はセンバツでベスト4にいってます」
「(ハァ・・)そいつは凄い。いつの頃になるんですか、現役の頃は」
「昭和34年ですね」
「ボクの産まれる6年前ですね。熊工はいい選手だしますからね」
「広島の前田に西武の伊東。それから元巨人の緒方。僕は緒方が好き
でした」
「緒方はアキレス腱の怪我さえなければねぇ・・・」
緒方は2年生の時、Y校(横浜商)戦でサヨナラセンターオーバーヒット
を打っているハズだ。1番ショートだった彼は、その試合の解説者が話
した様にかって同じポジション・同じ打順でチームを引っ張った後生川
(ごしょうがわ)を彷彿とさせた。
後生川のいたチームは左腕エース:林田を擁しベスト8まで行った。
その時の監督は最近「女性蔑視」発言で物議を醸した八浪(やつなみ)熊
本県会議員である。
個人的な見解なのだが(と氏も前置きしたようだが)『観光客を呼ぶに
は酒と女とギャンブル』というのは古めかしく且つ余りに男の本音に過
ぎるのではないのだろうか、今のこのご時世では。
「ところで、どこを守られていたんですか。現役の時は?」
「ピッチャーです。ま、エースじゃなくって11番でしたけどね」
「ピッチャーですか。甲子園では?」
「投げてます」
「そりゃ、凄い。ボクの知り合いでも甲子園に出た人がいるんですが、
その人はライトだったんですけど『凄いんだよ、甲子園って。グランド
がやたら広く感じるし、歓声がまた他とは違うんだって』聞かされたこ
とあります」
「うん。銀傘にね、歓声がこだましてウァ〜って聞こえてくるんです」
少しその様を想像してみた。きっとその想像の先に事実があるのだろ
う。それは経験した者にしか分からない歓声なのだと思う。
それからおじさんは熊本工業のことを”工業”と言っていた。ボクら
は熊工と言ってしまうが、地元ではきっと”工業”と言うだけで通じて
しまうのだろう。
*** *** *** ***
工業出身のおじさんと入れ代わる形で新しい客がきた。
その人はボクの左に座り、ボクの方をチラチラと見ていた。
短く刈り込んだ頭、彫りの深い顔、額の深い皺。Kちゃん?
Kちゃんとは、この前ボクがこの店に来た時一緒に飲んだ地元の漁師
だ。
「あんた、それ美味しいかい?」とボクの前にあるサザエを指差す。
「ええ、とても」
「そうか。う〜ん、そりゃダメだ」
「(そんなこと言われてもなぁと思いつつ食べる)美味しいですが」
「そりゃ***で取れたサザエだ。サザエは***のに限るんだ。形を
見ればどこのもんか分かる」
そこで女将が「H野さん、それは無理よ。貴方は漁師だからどこのサ
ザエで、どれが美味しいか分かるかもしれないけど、こちらの方は普通
の方なんだから」と助け船を出してくれる。
Kちゃんじゃないみたいだ。もしケンちゃんなら女将もそう呼ぶだろ
う。それにしても似ている。海は波で漁師の顔を作ったりするのだろう
か。
「今度、俺が取ったサザエを持ってきてやる」
「食べてみたですね。とりあえずザザエの次は何を頼めばいいですか?」
「ここのトロは旨い。これには俺も参る」
「ありがとう。H野さん」
「じゃ、トロを」
カウンターケースの中にトロがあることには気付いていた。
生意気なようだが、ボクは寿司屋では滅多に自分からトロは頼まない。
まず自分の好きな鯵や鰯や鯖などを食べてそれが美味しければ、初めて
トロを注文する気になる。値段に見合った=高いが旨いトロを食べたい
からだ。
ふじ寿司でのボクは、握りを食べることより美味しい魚で飲むことに
主眼をおいている。この間は、女将が1人前を握ってくれた。その中に
トロはあり有体に言って旨かった。今日は造りだ。覚悟(値段)しとけっ
てことになる。
「ふじ寿司」のトロは見た目通りにメチャクチャ旨かった。
ボクは築地で仲卸しをしている叔父のトロが1番旨いと思っていたが、
その食べ慣れたトロと甲乙つけ難いものがあった。
叔父のトロのは身にちょっとした筋が入っている。その筋の部分の歯
への微妙な引っかかりが気に入っているのだ。そして、油がのっていな
がらしつこさのないその加減がいいのだ。
ふじ寿司のトロには筋こそ入っていなかったが(ま、これはどの部分
を仕入れたかにもよるけど)、見た目の艶やかさとそのくせにしつこく
ない油ののりがあった。
ボクは前回ここで食べた鯛に個人的なベスト・オブ・鯛を捧げてしま
ったが、今回のトロには 築地の叔父のもの、浜松町”美乃”のものと
並び「トロ御三家」を命名しようなどとバカなことを思った次第だ。
H野さんに「とても美味しい」旨を伝えると、”そうだろう”と頷い
ていた。H野さんは若い頃横浜で働いていたらしい。そして地元に戻っ
てきて漁師になったそうだ。
*** *** *** ***
暫くすると、H野さんの奥さんが店に迎えに来た。
「ちょっと唄ってから帰るけの」とマイクを握り『長崎は今日も雨だっ
た』を唄った。
「お前も唄わんか」と言われたので、”では”ということで、自分が子
供の頃に買ったレコードからリクエストした。
北島三郎『函館の女』、内山田洋とクールファイブ『中の島ブルーズ』、
さらに山本コータローとウィークエンド『岬めぐり』、尾崎紀世彦『ま
た逢う日まで』
「貴方、お若いのによくこんな歌 唄えるのね」とボクの隣りに座った
女将は言う。
「ええ、まぁ」
「じゃ、私のリクエストに応えてくれる?」
リクエストブックをめくった先にはトワエモアの『ある日、突然』
があった。
「どう?」
「唄えますよ。レコード持ってます」
(いや、ほんとに。このデュオの復刻EPを19の時に5枚買った)
ボクのスポーツ好きは彼らの唄った『虹と雪のバラード』がテーマ曲
だった大会に始まるのだ。
「♪ある日突然2人黙るの。あんなにお喋りしていたけれど〜♪」と
ボクは唄い出す。
すると女将は薄い水割りのグラスを持ちながら歌詞を口づさみだした。
「あっ」とボクは思い出した。この前もボクは請われてこの曲を唄い、
女将は同じ様に口づさんだのだ。
余程この曲が好きなのだろう。
ボクが唄い終わると「ありがとう、上手に唄ってくれて。この曲、私
本当に好きなのよ。自分じゃ上手く唄えないから、よく人に唄って貰う
のよ」と言った。
「はい。唄いながら思い出しました。この曲が好きだったって」
「貴方、確かこの間いらした時、独身って言ってたけど」
「ええ。でもついこの間結婚しました」
「それは、いつですの?」
「ちょうど10日前に。入籍しただけなんですけど」
「それはそれは。おめでとう。今度奥様も連れてらして」
「今、お腹の中に子供がいて」
「それはお早いのねぇ」
「はぁ。まぁ、そうですね」
「じゃ、今度は奥さんとお子さんを連れてらして」
大分酔っ払ってきた。
時計を外してきていたから時間が分からなかったが、もう結構いい時間
なのだろう。
しかし、腰はしっかり座っていた。
*** *** *** ***
翌日、ボクは手酷い二日酔いだった。(あれだけ飲めば必然だ)
飛行機のフライト時間から逆算して8時45分のバスに乗ってJR川
棚温泉駅に行かなければならなかった。
泊まった宿には目覚まし時計がなかったので、危うく寝過ごすところ
だった。よく起きれたと我ながら思う。
そして、ボクは重たい頭ですっかり忘れていた1つのなことに気付く。
「ふじ寿司で握りを食べていない!!」
寿司屋に行って寿司を食べない・・・。う〜ん、そんなことは初めて
の体験だった。
「何しにきたのだ」と言われればそれまでだが、ボクはただふじ寿司の
寿司を食べたかったのではなく、ふじ寿司のカウンターに座ってあの雰
囲気を味わいながら寿司を食べたかったのだ。
確かに寿司は食べなかったけど、それを忘れるほど美味しいものを食
べ、有意義な夜を過ごした。それでいいじゃないか。寿司屋での楽しみ
方は一杯ある。その中に寿司を食べないってのがあってもいい。(強引
な自己納得かもしれないけど)
雨は小雨だったがまだ降っていた。
バス停にはボクしかいない。ここはそんな町なのだろう。
と、1人の男の人がこちらにやってくる。その人は工業OBのあのおじ
さんだった。向こうもボクに気付いたようだ。顔が笑っている。
駅にはたったの5分で着く。その短い時間の中でも、ボクは昨夜の楽
しいふじ寿司でのひとときが続いているような気がしていた。
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川棚温泉のHPがあります。内容はともかく興味のある方はアクセスしてみて
下さい。
「ひなご」はこの6月に宿泊した旅館で「山光園」は昨年の11月のそれ。
「川棚グランドホテルお多福」は「山光園」の律義なご主人から夕食の場所の1つ
として紹介された所。こちらに行っていたら、私は「ふじ寿司」を知らないまま
人生を送ることになっていました。(←オーバーな)
・http://www.town.toyoura.yamaguchi.jp/hinago.html
・http://www.town.toyoura.yamaguchi.jp/sankoen.html
・http://www.town.toyoura.yamaguchi.jp/otahuk.html
08年での回顧:
上記、URLは現時点ではアクセスできませんでした。
工業出身の松本とは松本輝のことである。
そしてその松本の同期が、ホークスの大エース:斉藤和巳。
去年、故障に苦しむ彼の姿を見て、Yahoo!ドームにあるダグアウトで彼の
Tシャツ、タオルを買った。
テンションあがって他のグッズも予算オーバーで購入。周りが皆ホーク
スファンというシシュエーションは東京在住にはなかなかないもんで。
こないだ、親子連れの小学生の息子さんの方がホークスの帽子(デザイン
されたもの)を被っていて、思わず「おじさんも、その帽子持ってるよ。
でも、余りに似合わないから、最近被ってないんだけどね」と声をかけそ
うになってしまった。冬物の帽子だから、これを機会にまたぞろ被ろうかな。
(全体は黒地なのであるが、左サイドの一部が白の炎?でデザインされ そこ
以降がイエロー地。さらにイエロー部分に黒のローマ字で福岡ソフトバンク
ホークスと刺繍されている)
来季こそは。。。斉藤にも、チームにも期待しています。
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ラウンジ有馬記念:http://onlykiwi.seesaa.net/
かって渋谷に「有馬記念」という競馬バーがあった。
2階へと上がる階段にひかれた赤い絨毯が、勝手にこころの
敷居を高く感じさせていた。
だが。1度思い切って店に入ってしまうと、そこは競馬ファン
にとって至福の場所であった。
ここは、バー「有馬記念」へのリスペクトから、その名を冠した
競馬予想のページである。
因みに最近オープンしたヤマダ電機 LABI渋谷は「有馬記念」の
跡地に建っている。
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【オモシロイ、オモロナイのボタン】

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