2008年08月10日

読書ノート、ふたたび。山本一生「恋と伯爵と大正デモクラシー」

■タイトル:「恋と伯爵と大正デモクラシー 有馬頼寧日記1919」(日本経済新聞社)
■著者:山本一生
■ISBN:9784532166366
■読書期間:2008/7/22-7/27
■抜書き:序章 より

 翌三十年、いよいよ生活も不自由になったので、農林大臣河野一郎の要
請をいれ、中央競馬会理事長の職に就く。
 それまでは、農相在任中に府中の競馬場を視察で訪れたことはあっても、
本格的に競馬にかかわったことはなかった。
 ただ戦前からスポーツには関心を寄せていて、とくに新しいスポーツで
あった野球が好きで、上井草球場を本拠地とする東京セネタースのオーナ
ーとなり、暇を見つけては観戦に出かけている。

 野球での経験は競馬において活かされる。人々から愛されるようにと、
プロ野球のオールスター戦にヒントを得て、ファン投票によって出走馬を
決めるレースを発案し、このレースは三十一年の暮れに中山グランプリ競
走として行なわれた。
 新しい試みは好評を博したが、それが最後の願いであったかのように、
と年が明けると頼寧(よりやす)は肺炎をこじらせ、一月九日の深夜に七十
二年にわたる波乱の生涯を終える。

 中山グランプリは、在職中に亡くなった理事長への追悼を込めて、この
年からは有馬記念の名で行なわれた。
 創設者の願った通り、ファンの選んだドリームレースには強豪馬が集い、
毎年「日本最強」を巡るドラマティックな戦いが繰り広げられ、いつしか
日本ダービーをしのいで、わが国で最も人気のあるレースとなっていった。

 (中略)

 じっさい華族でありながら、農民運動や労働運動を支援し、昭和の革新
運動にもかかわるなど、頼寧の半生は異彩を放っている。
 そういう半生を知って、評伝を書きたいと思った人がいても不思議では
なく、かくいう私なども、そのひとりであった。

 だが、いざ筆をとろうとすると、「それには及ばない」という声が、あ
らぬ方角から聞こえてくる。

「私は世の中にあるもので一番嫌いなものは銅像であり、伝記であり、
記念碑であります」
「私のようなものの伝記を書かれることは絶対に拒否したいと思います」
(『七十年の回想』)

 本人にこれだけ明確に拒絶されると、伝記ではなく評伝だと言を弄して
も、あまり説得力はない。

 では絶対に書いてはいけないのかと、というと、そうでもないようで、
昭和二十九年に『週刊朝日』で行なわれた徳川夢声との対談では、ヒント
になるようなことを口にしている。

「いわゆる伝記というものは、人間を表面からばつかりみて書いている。
平面像であつて、立体像じやあないですね。だから、近衛さんの伝記を書
くなら、待合で遊んでたこと、こういう女と関係があつたということ、そ
こまでぶちまけていかなければ、近衛さんという人物はうかびあがらない。
とにかくわたしは、いつしょに待合で遊んでいた近衛さんに、特別の親し
みをもつてるんで、公式の場所の近衛さんなんてつまらないですね」

「近衛」を「有馬」に置き換えれば、そのまま頼寧の評伝を書くときの
必要条件となるだろう。
「有馬頼寧伝」を書きたいならば、「こういう女と関係があつたという
こと」までぶちまけるべきで、そうでなければ「有馬頼寧」の魅力は浮か
び上がってこない、というのである。
 あるいは女性については、近衛より頼寧のほうがはるかに発展家だった
ことを考えると、まずそれについて書けということかもしれない。

 しかし、そうは言われても、簡単にいかない。頼寧の著書は数多くある
が、その中には関係のあった女性について触れたものはひとつもないし、
残された手紙の中にも、恋文らしきものは見あたらない。
 なにを調べればいいのやらと思案に暮れていると、まるでこれだと言わ
んばかりに『有馬頼寧日記』が出版される。

 (中略)

 有馬頼寧の日記は、大正八年に始まり、途中に空白があったり、散逸し
ている年もあるが、昭和三十二年の亡くなる直前まで記されている。
 この日記は戦後五十年を機に、二十一年秋までの分が出版されることに
なり、尚友倶楽部・伊藤隆編で平成九年より、『有馬頼寧日記』として五
巻に分けて刊行されていった。
 ただ、有馬日記に早くから注目していた編者は、利用する際に気になる
ことがあったようで、頼寧の息子の頼義に会ったときに、いちおう確かめ
ている。

「日記はご自分で出版されるおつもりで、女子大生に書き起こしをさせ
ているというお話しであった。私は日記には随分プライベートなこと、特
に女性関係の記事が多くありますがと申し上げたら、それがあるから出す
んだというお答えであった。『君と僕とでは日記の利用方法が違うから使
っても宜しい』ということであった」
(伊藤隆「解題にかえて」第五巻)

 表現こそ違うが、父頼寧と同じようなことを口にしている。


■長い長いワンセンテンス〜愛着を持たざるを得ない人物

 競馬ファンなら誰しも一度はその名を聞いたことがある人物。
それが有馬頼寧(よりやす)である。

 ファン投票で選出されたドリームレースの発案者にて、在職中に逝去
したためそのレースに彼の名前が冠された。
 本著にもその経緯がふれられる有馬記念のエピソードである。

 しかも。彼が旧久留米藩の藩主筋であり、いわゆる華族であるという
ことは知っていたが、本来の彼の活動は初めてこの本で知り得た。

 なぜこの本を読もうと思ったのかは忘れてしまった。
 というのも、自分はほとんどの本を区内の図書館で借りているのだが、
予約した本が用意できたというメールを受け取って"はて?何か予約して
いたっけ"と思い、受け取りに行って"ああ、これだったか"と思った次第
だったからである。
 多分、何かの雑誌の書評で興味を持ったのだろう。

 ただし、著者の山本一生の本は過去に1冊読んだことがある。
「競馬学への招待」という本。

 この本は友人のヤナさんから薦められた本で、彼はこちらの趣味を熟知
していて(好みが合うという面もある)「戒厳令下のチンチロリン」とかを
紹介もされた。

「高橋直子の『競馬の国のアリス』がダメなら、彼女の本は多分合わな
いだろうな。以降の本は右肩下がりの内容だから」
「『ホーおじさんをさがせ』はボクや弟もその存在に気づいて探してい
たから、確かに面白かったんだけど、多分、もう読まないなと思う」
 ということを話した記憶がある。

 話しは激しくここから逸れるのであるが。

 高橋直子は旦那の高橋源一郎がその競馬エッセイで書くととやたら魅力
ある人物になる気がする。
 競馬場に行っていつもうたた寝する人。でも、なぜかギャンブル勘がよ
く旦那よりよっぽど馬券がうまい人。競馬シロウトぽいところを旦那がか
わいいと思ってるフシ。。。

 でも。その人が書く本は、根本康広騎乗のハヤチネとかが出てくる下り
で"たしかにその時に競馬場に行っていたのだ"(=競馬が好き)と感じられ
るだけで、それと文章の出来は関係ない。
 旦那の源一郎が書く高橋直子がいい訳で、高橋直子が書く文章が必ずし
もいい訳ではないなどと言って、賛同してくれたのは弟だけだったかな。
 文章は好みですからねぇ。

 その高橋直子はもう高橋直子ではない、旧姓で書いている競馬エッセイ
をたまに目にしたりする。
 別れたのだから本名=ペンネームを変更したのだろう。

 だからいまでも首を捻ってしまうのは吉永みち子である。
 競馬記者から気がつけば騎手の女房。そして、もうずっと前から競馬以
外の世界で活躍しているのだから、吉永を名乗る必要はないと思うのだけ
れど。

 こちらの本も読んだ。確かに面白かったのだが、彼女の本はそれ以外
は読んでいない。
 なかなか(個人的ではあるが)複雑な思いを抱かせる書き手だったからで
ある。
 多少あざとく感じてしまうのは致し方ないよね。


 話しは戻って。有馬頼寧(よりやす)は伝記を書かれることが嫌いだっ
たと記されている。

 自分が子供の頃を除いて所謂その手の類で読んだのは「小説盛田昭夫
学校」ぐらいか。
 あれはあれで十分に面白かったのだけど、有馬やその息子が伝記小説
で主張することも一理あるかもしれない。いや、ありだろう。

 あ、前回触れた「サントリークオータリー」で一部抜粋掲載されてい
た「やってみなはれ みとくんなはれ」(山口瞳・開高健)も読んだか。
 これは文句なく面白かったな。


 内容について若干の推測。
 自分はこの本で著者が登場する下りは時間的レトリックが施されてい
ると睨んだ。
 みどりさんと八重ちゃんの繋がりは書かれたとおりに判明したのでは
なくピースを上手く組み直していると思っているのだが、それだからこ
そ、逆にこの本は実に面白くなってもいる。

 更に勘ぐれば、あの順番というプロットを立てたからこそ、この書き
方にしたのではないだろうかと思っている次第。

 「戒厳令下のチンチロリン」で藤代三郎は間違いなくグリーングラス
の有馬記念を見ているからこそあのエンディングという邪推をヤナさん
に話したが、おそらくこの本を読んでいるだろう彼に、上記の推測を話
したらどう反応してくれるだろうか。

 藤代グラスの有馬見てる説は、作中のグラスAJC杯快勝(のちの有
馬と同じ戦法)の下りが伏線になっているという理由をつけたので、大
いに納得して貰えた。

 今回はその根拠まで述べてないから、説得力薄いかな?


-------------------------------------------------------------

読書ノート、ふたたび。: http://onlykiwi.seesaa.net/

読んだ本の題名と作者、それから読んでいた期間と出版元。
 このたった4つの情報を記しただけの簡単なメモ的なもの
が、ボクがかつて付けていた「読書ノート」の全容だ。

 いつの頃からか、せっかくの読書ノートをつけるのをやめ
てしまった。
 本を読むたびに、ああ、なんて思うこともあり、じゃあと
いう訳でふたたびつけだそうと思いたった。

 できれば、その読書ノートをつけることを勧めてくれた
きみこ先生に読んでもらいたくもある。

-------------------------------------------------------------

【オモシロイ、オモロナイのボタン】

にほんブログ村 野球ブログ 福岡ソフトバンクホークスへ
TREview
人気ブログランキングへ

【オモシロイと思われましたらクリック(3段評価)をお願いします】
【オモロナイと思われましたらコメント(自由形式)をお願いします】
【逆パターンでも構いません。勿論、ご感想もお待ちしております】
posted by onlykiwi at 13:54| 東京 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 読書ノート、ふたたび | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
有馬記念の創設者はオールスターをモデルに有馬記念を作ったんですね…
そういえば、野球推理小説の人にこの方の息子がおりましたね…
Posted by たかびごん at 2008年08月11日 07:49
高橋直子が谷川直子になって変わったこと。

高橋直子さんって、離婚されて谷川さんで活動
されていて、しかもエッセイから小説に転向
されていて・・・。
さらに著作「おしかくさま」が文芸賞受賞。
でも馬好きは変わらないところが、らしいですね!
谷川さんについて詳しく分析したサイトが見つかったので。
http://www.birthday-energy.co.jp/
どうやら、新たな挑戦として小説に取りかかった
時期が、谷川さんに追い風の時期だったようです!。
体調を上手くコントロールしつつ、有馬記念も頑張って下さいね〜。
Posted by 敦貴 at 2012年12月22日 11:54
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/104510111

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。