2011年02月26日

読書ノート、ふたたび。吉行淳之介「娼婦の部屋 不意の出来事」


■タイトル:「娼婦の部屋 不意の出来事」(新潮文庫)
■著者:吉行淳之介
■ISBN:9784101143026
■読書期間:2010/7/12〜2010/7/16
■抜書き:娼婦の部屋 より

 半月ほど経ったある夜、以前とは別の娼家の門口の佇んで
いる秋子に、私は出会った。
 以前と同じように、私は秋子に目くばせしてその家の中に
歩み入った。

「いつ戻って来た?」

 秋子の部屋で、私は訊ねてみた。

「昨日」

 私の躯に腕を巻きつけながら、秋子は言葉をつづけた。

「昨日、もし会っていたら・・・」と、彼女はあいまいな笑
いを浮かべながら、次の言葉を探している様子になった。
 すぐに、彼女は言葉を見付けた。

「もし会っていたら、あたまから食べちまうところだった」

 という言葉は、今日はそれほどの状態に秋子の躯が置かれ
ていない、ということも意味していた。
 そして、昨日、あたまから食べちまわれた男がいたことも
意味していた。
 その男は、おそらく偶然、彼女の前を通りかかった未知の
男であったのであろう。

 しかし、そういうことを想像してみても、私は以前のよう
にその手がかりの付かない男にたいして、鋭い嫉妬を覚える
ことはなくなっていた。


■抜書き:紫陽花 より

 大都会の中央部では、地面はすべて舗装されたり、鉄材や
コンクリートの建築物の下敷になったりしていて、剥き出し
の土をみることは困難になっている。
 彼が子供の頃、つまり三十年も前のことだが、このあたり
に土はたくさんあった。
 三角形をした百坪あまりの剥き出しの地面に、木造家屋が
建っていて、それが彼の家だった。

 当時ありふれていて、今では滅多に見ることができなくな
っているものに、土と、それから馬がある。
 門口に立って道路を眺めていれば、荷車を曳いた馬や、軍
人を乗せた馬が通りかかるまでに、長い時間はかからなかっ
た。
 今では、馬を見るためには、動物園か競馬場かサーカス小
屋へ行かなくてはならない。 


■長い長いワンセンテンス〜記憶に繋がっている時代

 私が生まれたのは昭和40年である。
 ものごころがつく前後の、自分の周りにあった風景は朧げ
ながらも記憶の中にある。昭和40年台の半ば。
 都電の停留所でそれを待っている場面。銭湯の帰りのこと
だったか?
 舗装されていない雨上がりの道路の水溜り。あるいは乾燥
した時分の砂埃り。
 ちょっとした林の中に設営(←オーバーな)された秘密基地。

 抜き出したそれぞれの作品が発表されたのは『娼婦の部屋』
が昭和33年、『紫陽花』が同39年らしい。
 自分が生まれる前の時代、その風景が描かれた部分を読む
のが結構好きだ。かけ離れた年代、例えば大正とか昭和初期
よりも、戦後のそれも昭和30年代あたりが。
 なぜかといえば、自分の持っている記憶に明確な繋がりが
感じられるからである。

 これからも自分が生まれる少し前にかかれた小説を読んで
いくのだろう。 
 私が吉行淳之介を好んで読むのはそういうことなのかもし
れない。あと隠微なところとかね。


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読書ノート、ふたたび。: http://onlykiwi.seesaa.net/

読んだ本の題名と作者、それから読んでいた期間と出版元。
 このたった4つの情報を記しただけの簡単なメモ的なもの
が、ボクがかつて付けていた「読書ノート」の全容だ。

 いつの頃からか、せっかくの読書ノートをつけるのをやめ
てしまった。
 本を読むたびに、ああ、なんて思うこともあり、じゃあと
いう訳でふたたびつけだそうと思いたった。

 できれば、その読書ノートをつけることを勧めてくれた
きみこ先生に読んでもらいたくもある。

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*読書ノートの索引はこちら

  http://onlykiwi.seesaa.net/category/6437306-3.html


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posted by onlykiwi at 15:00| 東京 ☀| Comment(17) | TrackBack(0) | 読書ノート、ふたたび | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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